太田述正コラム#10426(2019.3.12)
<皆さんとディスカッション(続x4009)>

<太田>(ツイッターより)

 「安倍晋三首相は…悪化する日韓関係について「本格的なけんかになったら困る」と懸念を表明…「日韓は信頼関係をつくっていかなければいけない」との考えを示した…」
http://news.livedoor.com/article/detail/16141908/
 「徴用工「仲裁委員会」提案へ準備…」
http://news.livedoor.com/article/detail/16143511/
 宗主国様の指示か、何もやらないつもりだね。

<太田>

 USさんを始めとする皆さん、八幡市レク用スライド#11(旧#12)の解説案です。
 昨日、内々、USさん等にお示ししたものに更に、少し手を入れました。↓

 中米日のほかはインドが少し顔を出しているだけのチャートが、しかも、その中心に日本が鎮座しているようなチャートが、どうして「世界の今後の展望」のチャートたりうるのか、ですが、日本は米国からの「独立」さえ果たせば、世界の模範たる国であるからです。
 亡くなられた昭和天皇同様、もうじき上皇になられる今上天皇は、間違いなくそうお考えである、と私は拝察しています。
 というのも、今上天皇は、今年の2月24日付の在位30年に係るおことばの中で、「私がこれまで果たすべき務めを果たしてこられたのは、その統合の象徴であることに、誇りと喜びを持つことのできるこの国の人々の存在と、過去から今に至る長い年月に、日本人がつくり上げてきた、この国の持つ民度のお陰でした。」
https://www.sankei.com/life/news/190224/lif1902240046-n1.html
とお述べになられところ、これは、人間主義を基軸とする日本文明を礼賛されている、というのが第一点です。
 そして、(昭和天皇もそうでしたが、)今上天皇が、対米見せ金としての軍隊もどきの自衛隊を一度も公式訪問されず、(昭和天皇が首相が公式参拝を躊躇するようになってから靖国神社公式参拝をされなくなったところ、)靖国神社も一度も公式参拝されなかったこと、つまりは、日本の再軍備/「独立」を訴えて来られた、というのが第二点です。
 つまり、昭和天皇が、戦後の自民党を中心とする歴代政府が軍事を軽視し、そのことと相俟って米国の属国たる体制を維持してきたことに対し、拒絶姿勢を示されておられたところ、今上天皇もそれに倣って来られたわけです。
 しかも、今上天皇は、この拒絶姿勢を一層強く表明すべく、(先の大戦は日本にとって正戦だったとお考えなのでしょう、)基本的に旧大日本帝国臣民戦没者達だけを対象にした、度重なる慰霊の旅を敢行されたものの、なお、政府の態度に変化が見られないことに業を煮やされ、2016年7月13日、政府に相談することなく、退位のご意向を漏らして報道させ
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%98%8E%E4%BB%81
る形で退位することとされた、と私は受け止めています。
 その上で、上出のおことばの中で、「我が国<は>、今、グローバル化する世界の中で、更に外に向かって開かれ、その中で叡智を持って自らの立場を確立し、誠意を持って他国との関係を構築していくことが求められている」、と、ついに、今上天皇は、明確な形で、日本の、縄文モードからのモード転換の必要性を示唆されたのです。

 ここで重要なことは、そう遠くない将来、ほぼ間違いなく国力が世界一になるであろう、中国の当局もまた、そう考えていることです。
 
、第一点たる日本文明礼賛に関しては、中国当局は、2012年初め頃(コラム#5299)から、中国国内向けに日本礼賛キャンペーンを開始することでもって事実上告白し、爾来、連日、このキャンペーンを続けてきています。

 (中国以外の国々ではどうでしょうか。
 日本人の識者達でそう思っている人は必ずしも多くなさそうですが、最近、欧米のランキングで日本をよい国のトップないしトップに準ずる国とするものが結構出てきています。
 私自身は、かねてから、日本人の平均寿命が事実上世界一であることがその端的な証左である、としてきたところですが、最近、同じような趣旨ながら、より精緻な、日本の高齢者の健康度(加齢による身体的負担の低さ)が世界一である、とするランキングが英米系医学雑誌で公表されたばかりです。
http://www.healthdata.org/news-release/what-age-do-you-feel-65
 また、米国での世界最高の国ランキングで、日本はスイスに次ぐ2位とされたところです。
 (9つの指標(冒険、市民権、文化的影響、企業家精神、歴史遺産、経済成長、ビジネス、国家の力、生活の質、をもとにランク付けしたもの。)
https://news.infoseek.co.jp/article/recordchina_RC_682176/ (コラム#10332)
 更にまた、英国での世界で最も賢い頭がいい国・地域ランキングで、日本が1位、スイス2位ともされたところでもあります。
 (3つの指標(ノーベル賞受賞者数、人びとの平均知能指数(IQ)、小学生の学習成績)、をもとにラン付けしたもの。)
http://news.searchina.net/id/1674648?page=1 (コラム#10316))

 では、そんな中国当局が、どうして、江沢民時代の少し前頃から、反日歴史教育を国民に対して積極的に施してきたのでしょうか。
 それは、一つには、日本政府や日本人達からより大きな援助を引き出すための一種の脅しとして使うためだった部分もあるけれど、より大きな理由は、毛沢東中国共産党の実権を握った時からというもの、中国共産党が日本を模範としてきてきたにもかかわらず、そのことを欧米諸国やロシアに絶対に気付かれないように韜晦してきたところ、その一環であった、ということです。
 次に、第二点たる日本の再軍備/「独立」の訴えに関しても、中国当局は、習近平時代に入ってから、これまたつい最近まで、尖閣等で軍事攻勢をかける形で行ったところです。
 具体的に申し上げれば、かねてより、北朝鮮核武装を事実上奨励してきた中国は、2010年10月18日に習近平党中央軍事委員会副主席に選出されるや、米国や日本との対決姿勢を強め始めました。
 (その後、習近平は、2012年11月15日から中国共産党中央委員会総書記、及び、中国共産党中央軍事委員会主席、2013年3月14日から中華人民共和国主席、に就任し、現在に至っています。)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%BF%92%E8%BF%91%E5%B9%B3 
 そして、2011年2月末から南シナ海実効支配強化を開始し、
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8D%97%E6%B2%99%E8%AB%B8%E5%B3%B6
更に、2012年7月13日、中国当局は、人民日報を通して、尖閣諸島をめぐる武力行使を示唆した上で、
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B0%96%E9%96%A3%E8%AB%B8%E5%B3%B6%E5%95%8F%E9%A1%8C
2012年9月の日本の野田政権による尖閣諸島国有化に藉口し、中国の国家海洋局の監視船等の公船が尖閣諸島への領海侵犯を高頻度で繰り返すとともに、中国政府機関の航空機が領空侵犯を繰り返し始めました。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B0%96%E9%96%A3%E8%AB%B8%E5%B3%B6 )
 これについては、上述したような韜晦目的ではなく、もっぱら、日本が再軍備をしようとしない、つまりは、日本が米国から独立しようとしない、ことに、習近平が痺れを切らしたからである、というのが私の見方です。
 というのは、今でも、人民解放軍は、装備面ではシステム的な総合力において、人員面では練度において、自衛隊に及ばないこともあり、偶発的戦闘が発生しかねない、対日軍事攻勢は、中国側にとって大変なリスク・・偶発的戦闘が発生すれば一方的に撃墜等をされかねない・・を伴うというのに、かつ、このことを、江沢民胡錦涛に比べるとキャリア的に遥かに軍事に通暁している習近平が理解しているはずなのに、あえて、そんなリスクを冒すのには、余程の理由があると見るべきだからです。
 それでは、どうして、中国当局は、日本に再軍備/「独立」を訴えたのでしょうか?
 中国文明における人々のホンネは墨家の思想である、という話を前回しましたが、その思想の基本的な属性の一つは軍事の軽視であり、中国は、このところ懸命に日本文明への乗り換え・・日本文明総体継受・・に努めてきたとはいえ、未だに、人間主義(縄文性)もさることながら軍事的センス(弥生性)を十分身に着けてるには至っていないことから、今後の欧米やロシアに対する軍事的抑止に不安があり、日本を名実ともに模範の国にした上で、その「独立」日本と軍事的な協力関係を取り結びたいのでしょう。
 ところが、そんなところへ、日本の安倍首相が、日本の再軍備/「独立」を永久に不可能にしかねない改憲構想をぶち上げ、次いで、トランプが、2016年12月に、次期大統領に当選し、その後、中国の国力の米国越えを阻止すべく、経済熱戦・軍事冷戦を吹っかけてきました。
 そこで、習近平は、緊急避難的に、対日軍事攻勢を一時中止するとともに、露骨なまでに日本に対して微笑外交を繰り広げてきているわけです。

 で、いよいよトランプです。
 彼の戦略の眼目は、基本的にですが、先の大戦後、「勝者」の日本が「敗者」の米国に押し付けた体制・・一、解放され復興するアジア 二、自由貿易体制 三、全球的対露抑止体制・・からの離脱なのであり、米国にとってのデフォルトの体制への回帰なのです。
 二から申し上げれば、米国は伝統的に保護貿易主義でした・・南北戦争保護貿易主義の北部と自由貿易主義の南部との争いという面がありました・・し、三については、米国は自国の裏庭である南アメリカだけをもっぱら勢力圏とするモンロー主義を旨としてきたところです。
 トランプの大統領選挙中の、「在日米軍撤退の可能性」や「(日本が)核兵器を独自に保有することを否定しない」といった発言
https://biz-journal.jp/2016/11/post_17141_3.html 
は、彼の本心であり、トランプ流モンロー主義の論理的帰結の一つであるわけですが、期せずして、ここに、今上天皇のご意向に沿った形で、日本再武装を目指す、中・米による同床異夢的日本包囲網が成立したことになります。 
 なお、「基本的にですが」と申し上げたのは、一に関しては、米国の最大の敵は、20世紀中頃以降こそ、一時的に日本、その後、かなり長期間にわたってロシアであったけれど、それまでは、独立の経緯もあり、一貫して英国であった・・カナダも拡大英国の一環です・・ことから、大英帝国の解体、すなわち、自国への全球的覇権国の地位の移転、を実現してくれるところの、アジア解放までであればそれに賛成であったという経緯があるけれど、その結果として手に入れた全球的覇権国の座に綿々としていること、と、その生来的な人種主義、から、米国は、圧倒的な人口を擁するところの、アジアの復興は妨げたいと思っているからです。
 インドについては、中国と対比する形で、或いはよりミクロ的に、仏教、と、陽明学とを対比するといった形で、同国が日本文明総体継受に乗り出すかどうか、皆さんご自身で考えてみてください。